「やめる勇気」と「続ける力」。 この二つは、スポーツだけでなく、人生そのものを支える大切な軸だと、私は40年近くの挑戦の中で学んできました。
これは、特別な才能の物語ではありません。「動けば道は開ける」 というシンプルな真実を信じて歩んできた記録です。
もしあなたが今、何かを始めたい、続けるか迷っている、やめるべきか悩んでいる、もう一度挑戦したい そんな気持ちを抱えているなら、 この物語が少しでも背中を押せたら嬉しく思います。

※イメージ画
その頃、会社の若手から 「トライアスロンを再開しませんか」 と声をかけられました。
「しばらく泳いでいないから」と渋っていると、 「リレーで出ましょう。スイムとバイクは私たちがやるので、高橋さんはランをお願いします」 と言ってくれました。
ありがたい申し出を断る理由はなく、 波崎トライアスロンのリレーに参加しました。
久しぶりのレースの雰囲気に、スタート前から胸が熱くなり、 ゴールしたときには涙があふれそうになりました。
その数年後、さらに若い世代から 「一緒に金沢八景で行われるショートのトライアスロンに出ましょう。今から練習すれば間に合いますよ」 と誘われました。
プールで1000mを問題なく泳げることを確認し、 「やってみるか」とエントリーしました。
当日、エイジ別スタートで、私は30名ほどの最後尾からゆっくりと海に入りました。 ところが、なぜか呼吸が入ってきませんでした。 腕はゆっくり回しているのに、胸が締め付けられるような苦しさが続きました。
「これは過呼吸かもしれない」と感じ、ブイにつかまって休みながら再スタートを試みましたが、 数ストロークでまた苦しくなる——。 それを繰り返すうちに、 「ここでやめるべきだ」 という結論に至りました。
腕を上げてライフセーバーに合図を送り、 「本当にいいんですか? まだ時間はありますよ」と聞かれても、 「はい、リタイヤします」と答えました。
レースをリタイアしたのはこれが初めてでした。 悔しさよりも、 「これでよかった」 という安堵感のほうが大きかったのを覚えています。
岸に上がり、計測チップを返却して仲間のもとへ戻ると、 「えっ、もうゴールしたんですか?」と驚かれました。 実際には100mも泳いでいなかったのですが。
妻にリタイアを報告すると、 「偉いね。よく無理しなかったね」 と言ってくれました。 その一言が、心に深く染みました。
後から知ったのですが、 同じエイジでスタートした選手がスイムゴール手前で溺れて亡くなられていました。 当時、スイムゴール付近で応援してくれていた同僚たちは、 私がスイムゴールに現れないことからざわついていたようです。
その後、会社主催で 「トライアスロンアカデミー」という初心者向けの実践講習会を複数回開催しましたが、 そのたびにこのエピソードをお話しし、
「やめる勇気は、続ける勇気以上に難しい。 でも、その勇気を持ってほしい」
とお伝えしてきました。
幸い、大きな事故もなく、そのイベントは無事に終了しました。

